糸魚川ロングブログ

爆速ツイッター話題脊髄反射拳

小説とゾーニング1

雪見大福とお酒チョコ「ラミー」が美味しい季節となって参りました。

 

本屋に立ち寄った時、元気いっぱいにセクシー表紙が並んでいたライトノベルコーナーを、娘が「気持ち悪い」と言った――

そんな呟きからネット様々な方向に飛び火し、なんだかんだ燃え続けてるお話。

この娘は実在しない、嘘松だ、卑怯者だ、という意見から、

昔からこうだったとか、

表現の自由の危機だとか、

ゾーニングすれば問題ないとか、

ゾーニングしても無意味だとか、

なんかもうネオエクスデスみたいなぐちゃぐちゃ感になってるこの話題。

私なりの観点で、感想を述べてみる。

 

・「気持ち悪い」と言った娘は実在するかしないか?

正直どうでもいいから詳しく調べていないのだが、私としては「するかもな」と思う。

ツイッターで論客をしている人のどれぐらいが、ここ数年間にライトノベルの平積みコーナー、壁面平積みコーナーで実際に足を止めたことがあるだろうか。

もし実際にその壁を見ていないで「嘘松」と言っているのなら、ちょっと隙がある。明日にでもそういうコーナーに行ってみるといい。「あれ、これは……ひとまず、嘘松認定を撤回した方がいいな……」ぐらいに判断する人は、そこそこいると思う。

それぐらい、今のライトノベルコーナーというのはセクシーで肌色でばいーんでむちーんで色っぽいもので「壁面」が作られている。肉のカーテン。

ラノベ業界で恐らく№2につけているMFJの新人賞募集ページ貼っておくから、今のラノベがどういう感じなのか、1クリックで参考にどうぞ

bc.mediafactory.jp

セクシー売りの強さはレーベルというよりも作者さんによって強弱があれど、例えばホビージャパン文庫さんとかはこのMFJよりも全体的にもっとセクシーだ。最近リリースされたゲーム「ボンバーガール」のメ……女の子たちが表紙を飾れそうな文庫って認識がある。『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい』とか、タイトルからして突っ走っている。

まあ、小学生や中学生の娘さんがその「壁面」を見れば、そしてそれが自分と同世代の少年向けの棚であることを合わせて知れば、本音的な意味での男児の欲望丸出しな光景について「気持ち悪い(怖い)」と思うのは普通かなって思う。小5女子を100人そこにつれていけば、70人ぐらいは「気持ち悪い」って思う、時には感想を漏らす、のではないだろうか。この数値はテキトーだけど、なんとなく。

 

・そもそも娘をそんな棚に連れて行くのがお門違い、か?

 

アッ! 地底人(文芸ファン)の地雷を踏みやがった!

 

偏った思想のお父さんがあえて娘さんをそこに連れて行ったのなら、それはかなり悪意のあることに思う。悪意が動機なら話を聞く必要なし。

ただ、「少女が立ち寄る場所じゃない」「普通なら少女が通りかかる場所じゃない」みたいな批判がリプで多く見られたのは、私はけっこうショックだった。

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というのも、ライトノベルの棚というのは「少年&少女、両方向け」であった歴史の方が長いからだ

来歴から考えると、書店のライトノベルの本棚は「少年少女、どちらもが立ち寄りやすいコーナー」の一角として置かれているのが普通であり、実際そういうものだ。

書店に頻繁に足を運ぶ人ならわかってもらえると思うが、「学参・コミック・ライトノベル」は並んでいることが多い。

今や「文房具・学参・コミック・ライトノベル」のグラデーションは基本と言ってもいいだろう。その一帯を指して「学生向けコーナー」という書店の認識がある。

コミックを見に来た子に学参を買ってもらったり、学参を見に来た子にコミックを買ってもらったりは商売の基本中の基本。アニメ化と親和性の高いライトノベルも当然添えて。というわけで、ライトノベルコーナーは「少年も、少女も、普通に立ち寄るコーナー」だ。「そんな所に立ち寄った・そんな所に通りがかった娘が異常、そんな娘は存在しない」は、かなり的はずれであってしまうと思う。

……今18歳未満の人、ラノベがセクシー路線の大号令をかけた時期以降に物心ついた人の中には「え!? ラノベってちょいエロ本コーナーだろ!?」みたいに思う人もいるかもしれない。というか、私の回りのティーン数名にヒアリングしたら、そういう認識の子がけっこういた。尋ねた数自体は多くないが、ちょいエロ本コーナーと思っていた率で言うなら50%を全然超えている。「深夜アニメでやってる」というニュアンスも、相乗効果的にイメージを固めてしまっているのだろうなあ。

ざっくりとラノベの歴史を1990~2018年の28年間で考えたら、萌えとか妹とか一気に増えたなぁと感じたのが2008年の「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」のヒット以降に思うので、ラノベ=ハーレムセクシーイエエエイの歴史はまだ10年ぐらいに思う。

涼宮ハルヒの刊行は2004年、アニメ化からのブーム化は2007年だが、あれはそういう側面では過渡期的な作品だろう。今の徹底されたラノベのお作法ならば、小泉という雰囲気たっぷりの男キャラは登場しない方が普通だ。前後するように2006年にはザ・ハーレムの名手たる化物語が刊行され、2009年にはアニメ化している。前述のように俺妹は2008年だが、あれはアニメ化する前の書籍時点で120万部級ブームを形成していたので、たぶん2009年辺りがその後の「セクシーなライトノベル」10年を決定づけた年だろう。

ハルヒがまいた種を 化物語が耕し 俺妹が完成させた」みたいに、フランス革命~ナポレオンぽく言ってみる。短期間で大変動が起きたということからもぴったり。

 

というわけで、かなり手前味噌なまとめだが、ラノベ28年の歴史、後半10年が今の「少年向けセクシー棚」だというのなら、前半18年は「少年少女向け棚」であった

例えば「フリーター、家を買う」「三匹のおっさん」「図書館戦争」などで一般向け、特に女性読者からの支持を得ている有川浩先生は、デビューは電撃文庫である。デビュー作は「塩の街」。今では右(スマホ表示なら下)の表紙になり、角川文庫から出てるけど。

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塩の街は少年の時分に私も読んだが、やっぱりこの頃から女性向けだったと思う。

 

他にも、小説界で紛う事なき最強の賞「直木賞」の作家である桜庭一樹先生もデビューはライトノベルだ。えげつない青春文学の金字塔「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」も、最初は冨士見ミステリー文庫というライトノベル作品だった。今では表紙も変わり、角川文庫から出てるけど。

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この傑作は「鳥取県の、家庭に問題がある少女同士の、みっともないけどだからこそ友情(恋愛ではない)」というお話で、今なお10代少女に響きまくるだろうなあという内容。架空世界で百合期待!!みたいな男子には何一つヒットしないお話かも。

 

小野不由美先生の「十二国記」が少女こそ夢中になる冒険譚であったなど、語るまでもあるまい。「スレイヤーズ!」だって、女性ファンがいないなどと言ったら詠唱からの竜破斬で吹っ飛ばされる勢いである。ハーレム決め打ち退路遮断する前の18年間のライトノベル棚は、単純に「ヤングアダルト小説の棚」であり、そこは少年向けも少女向けも両者向けも混在する棚であったのだ。ヤングアダルトとは「仲間」の文芸。一緒に目標や価値観を共有し、共通の目標のために頼り頼られで困難を越えていく文芸。エロもハーレムも、オプションの一つに過ぎなかった。

 

2009年から冨士見ファンタジア文庫で3冊出た「花守の竜の叙情詩」はNL好きな女性に特化した内容だったと思う。でも男の私も楽しめました。

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2013年から3冊出たガガガ文庫の「鳥葬」シリーズも、男性女性全然問わない……もっとなんか幅広い意味での若者向け文芸だった。非常に好きです。

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長々とやっているが、つまりはラノベのコーナーに少女が立ち寄るのが不自然」とか「ラノベのコーナーに立ち寄る少女が悪い」とかいう主張は、長く業界に接してきて「ごく短期間の大変動に戸惑っている身」としては、正直わからないのだ。ラノベの棚は、少年だけでなく少女だって当然に立ち寄る棚であろう、と。

 

ただ、ただである。

自分で言っておいて隙があるなぁと思うのは、私がいくらラノベの過去の定義にこだわろうと、すでに業界はゾーニング的な選択と集中を進めている、という事実である。

 

大大大出版不況の大魔界時代に、ラノベが「男性向けに、セクシーでぶっちぎって、生き残りをかける!」と『王者の決断』をしたその時に、「少女向け小説は別レーベル……ライトノベルとは物理的な距離を置ける棚『一般文芸』で用意する」という決断も下されているのだ。画像は王者の決断のイメージで、特に関係ないです。

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例えば、「メディアワークス文庫」「新潮文庫NEX」「冨士見L文庫」などがその少女~女性向け路線のレーベルそれである。このレーベルたちは「表紙は漫画っぽいですが、ライトノベルではありません」と営業さんたちが言っていて、ライトノベルではないのだから、ライトノベルの棚には置かないでください。一般文芸の棚に、できたら新文芸という専用の棚を作ってそこに、とにかく現ライトノベルの棚とは物理的に距離を置いてつかぁーさい!」と、かなり無茶なお願いをしているのである。で、大体の書店では実際にそうなっている。

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「ビブリア古書堂」で名高いメディアワークス文庫は、母体が電撃文庫と同じで(だから新人賞も同一募集なのだ)、元々は電撃文庫を読んでいた少年少女へ」という、ラノベ読者の成長後の受け皿として発進したものだった。レーベル創刊時の『ケルベロス』とか、今のメディアワークス文庫からは全く想像がつかない純然たるバトル・ダークファンタジーだ。だがまあ「大人になった男は、そもそも小説読まないな。スマホでゲームしてるわ」ぐらいの変えがたい現実に合わせる形で、ずんどこと女性向け・少女向けの棚として完成していった。今や、会社をやめた元OLが山奥の小さな旅館でちょっといい男性オーナーとスローライフに仕事をし始める……みたいなプロットの作品がけっこうあるぞ。あとカバーかけるのがもったいない、見せびらかしたいぐらい澄んで綺麗な表紙の君僕系。私は、メディアワークス文庫なら「零能者ミナト」ぐらいの塩梅が好き。ミナトはかっこいいし沙耶ちゃんはかわいいんだよ、これが。

 

10年代に創刊された「新潮文庫NEX」と「冨士見L文庫」もメディアワークス文庫初期の思想を受け継ぎつつ、だが最初から女性向け・少女向けにターゲットを絞っているように見える。

 

ある意味「元『少年少女向け』」のユニセックスなDNAを大事にしているのは、10年代に創刊された新文芸の中では講談社タイガぐらいじゃないかなぁと。角川のノベルゼロは、「大人になった、男たちへ――」ってもろにHPに書いてあるし。いくつか読んだ感じとしても、男向けに思った。

 

と、まるで男子用女子用と通学路が分けられている男女別学の私学のように(全然実在する)、ラノベは少年用の棚・一部新文芸は少女用の棚とゾーニングが進んでいることは事実としてある。5年ぐらい前から。そうなると「性別問わず、十代向け」はどこに置いてもらえるのだ……どこに応募すればいいのだ……な、無い……死んでる!? みたいなエアポケットが発生してしまってもいるのだが……それはまた別の回に。

案外そういう「少年少女向け」は、今なら「君の膵臓を食べたい」や「よるのばけもの」の住野よる先生、一昔前ならボーカロイド小説、そこらへんが頑張っているか。それとメディアワークス文庫の君僕系。でも、内容的には、それはまた特定傾向への偏りがあるわな。

 

そんなわけで、私のような地底人や書店側にも「ラノベは学参やコミックの端に隣にいて当然ダルルルォ!!」という理があるし、新世代の「ラノベに少女が来るんじゃねーよ!!」というのにも理ができつつある。

私としては、ラノベは男女ともにハマれる緩い文化であったのが好きだったから(遊びに行った同級生宅で、その姉とスレイヤーズの話で盛り上がったのは楽しかったなぁ)悲しくもあるのだが、こっちは男の本能を狙い打ち、あっちは女の本能を狙い打ち、そういう「汎用型1つで幅広く売るのではなく、特化型を二つ用意して生き残る」理論になっていくのは仕方ないのかもしれない。となると「ラノベの棚に少女が来るんじゃねえ!!」も案外正しい……

 

いや、いやいやいや!!

「青年向けエロ本コーナーに少女が来るんじゃねえええええ!!」ではない。

「少年向け小説コーナーに少女が来るじゃねえええええ!!」ではないか。

すげえな少年向け小説コーナー。

もうその若き頃から、男女がそれぞれに性差を弁えていく高度な文化になったというわけか。それって、高度か?

 

では未来、「少年向け小説コーナー」が少女&女性禁制の場所となったその時、そしてそれに合わせる形で「少年向け小説コーナー」が書店内で移動させられ、官能小説コーナーのお隣とか、昔なら「ラブキャラ大全」が置かれていたコミック棚の隣に配置されたとき……

果たして全ては解決されるのだろうか?

 

ここからが本題。

ゾーニングって、効果あるの?

だ。

 

1、スマホが十代の手中にある現代において、ゾーニングって徹底できるの?

2、ゾーニングって、そもそもメリットデメリットを天秤にかけた時にプラスになるの?

 

私の観点からすると

1……無理

2……もっと大事なところで、とんでもないデメリットが発生する

のだけど、その詳細については次回。